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そこには高尚なメッセージも、ドラマチックな展開もない。ただ、目の前にある事象が、淡々と「リストアップ」されているだけなのだ。

これは、私が自宅スタジオで20年間録り溜めた、膨大なアウトテイクのデータに似ている。成功したテイクも、無残に外れた音も、ただそこに「存在」している。ジョビンは、人生の断片(パーツ)を一つずつ拾い上げ、それをサンバの柔らかなビートで繋ぎ合わせることで、混沌とした世界に秩序を与えたのではないだろうか。

完璧な「計算」が生む、究極のリラックス

ロックやジャズのダイナミズムが「動」のエネルギーなら、この曲は「循環」のエネルギーだ。

音楽的に見れば、同じような旋律が螺旋を描くように繰り返される「パッサカリア」のような構造を持っている。しかし、重苦しさは微塵もない。複雑なテンション・コードが次々と移り変わる様は、最新のAIが生成するフラクタル図形のように緻密で、それでいて自然界の川の流れのように淀みがない。

「三月の水」とは、ブラジルの夏の終わりに降る、すべてを押し流す激しい雨のことだ。それは「終わり」を意味すると同時に、次に来る季節への「更新(アップデート)」を意味している。

「疲れた」と感じる時、私たちの脳内は、処理しきれないキャッシュデータで溢れかえっている。この曲を聴くことは、その不要なデータを一度リセットし、OSをクリーンな状態に戻す作業に近いのかもしれない。


家内が庭で、雨上がりの土の匂いを楽しんでいる。 私はヘッドフォンを外し、窓を開けて、湯河原の柔らかな空気を吸い込む。

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