月別アーカイブ: 2026年1月

Bob Weir逝去

Grateful Deadの『Anthem of the Sun(太陽の讃歌)』をあらためて聴いている。

初めてこの盤に触れたのは、確か高校生の頃だったと思う。レコードに針を落とした瞬間の衝撃は、半世紀以上経った今でも脳裏に鮮烈に焼き付いている。 スタジオ録音とライブ音源を切り刻み、テープ操作で強引に繋ぎ合わせた「音響のコラージュ」。それが次から次へと頭の中に押し寄せてきて、私は一気にこのバンドの深淵へと引きずり込まれた。

リズムは定まらず、ジェリー・ガルシアのギターはアメーバのように上下左右へと広がり、私が敬愛するフィル・レッシュのベースは、まるでリードギターのようにガルシアを追いかけ回す。 そして、ボブ・ウェアだ。 バッキングなのかリードなのか判別不能な独特のカッティングを、平然と、しかし執拗に弾き続けていた。個々の音はバラバラで、一見すると無秩序だ。だが、それぞれの楽器音が合わさった瞬間、まるで子供たちが野原で鬼ごっこをしているような、妙な幸福感とグルーヴが聴き手をも包み込む。

昨今、私は自宅のスタジオでAI生成音楽の実験を繰り返しているが、断言してもいい。 最新のAIであっても、彼らのあの「不完全さ」や、当時のサンフランシスコの空気が含んでいた微粒子までを学習することは不可能だ。

仮に膨大なデータを与えて学習できたとしても、出力されるのはデッドの音ではないだろう。何千もの彼らのジャムの学習(エポック)を繰り返したところで、それは単なる計算上の「ハルシネーション」の連続にしかならない。 彼らの音楽がもたらす幻覚体験は、人間の魂と指先が起こす化学反応であって、アルゴリズムのバグではないのだから。

一昨日、ボブ・ウェアの訃報が届いた。

ジェリー・ガルシア、フィル・レッシュ、そしてついに最年少のボブまでもが逝ってしまった。 「オリジナル・デッド」という実体は、精神的支柱であったガルシアの死と共に、とっくに消滅していたのかもしれない。頭では分かっている。だが、物理的にも彼らが全員この世から去ったという事実は、やはりどうしようもなく寂しい。

追悼の意をこめて、『Live/Dead』のA面、「Dark Star」を再生する。 オーディオ・インターフェースのボリュームを上げ、部屋いっぱいに音を満たす。

スピーカーから流れる音は、相変わらず「デッドそのもの」だった。 彼らはそこで、永遠に鬼ごっこを続けている。

恥ずかしいけど、大昔に拙宅のスタジオで作ったDark Starのカバーで見送りたい。


1987 → 2017 → 2021 → 2026

このビデオは以前公開していたものを最近リメークしたものだ。でも、今回のお話の主題はこの映像ではなくてそのBGM、そうバックに流れるフュージョンぽいギターサウンドだ。とにかく最初は、ブルーススプリングスティーンみたいな曲を作りたくて10年前にスタジオに篭り試行錯誤を繰り返し、歌詞もつくり自分たちも自らマイクスタンドの前に立ち、歌った音源も残っている。タイトルも「Spring’s Teen」と題されてハードディスクにいくつもテークが残っている。このビデオの音源は、小生が歌ったバージョンがあまりにも酷いので、ギター氏が即興で弾いたものを録音したものだ。

そして2026年の正月にギター氏の弾いたかなりの音源をAIに打ち込み100本ノックをしながら突然のように出てきた音源がこれだ。たぶん、AIもあまりのしごきに耐えかねて、「もうこれで勘弁して」という感じで生成してきたんだろうと思う。

で、出てきた英語の歌詞を見て、思わず唸ってしまった。(今回は歌詞付きです)

album-art

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「これって、テイラー・スウィフトなんじゃない?」

生成された歌詞には、こんなフレーズが並んでいた。

She doesn’t ask for your opinion (彼女は君の意見なんて求めてない)

She’s not a child and she’s not a minion (彼女は子供じゃないし、誰かの手下でもない)

なんとも強気で、自立した女性の姿。 「君のアドバイスなんて要らないわ」「雨は上がったのよ」と言い放ち、さっそうとストリートを歩いていく。

小生が青春時代を過ごした70年代のロックやフォークにも「自由」を歌う曲はあったが、このAIが書いた歌詞には、現代のアメリカン・ポップス、特にテイラー・スウィフトが『1989』あたりのアルバムで確立したような、「軽やかで、ファッショナブルで、誰にも媚びない強さ」が満ち溢れている。

AIは私の上げた曲の曲調から、「これは2020年代のガールズ・アンセム(女性への応援歌)だ」と解釈したのかもしれない。

70年代にオハイオで過ごした頃、ラジオから流れていたのはイーグルスやフリートウッド・マックだった。時が経ち、2026年の今、この自宅スタジオでAIと共に音楽を作ると、そこには現代の「アメリカの空気」が含まれていた。ほんと驚きだ。

なんとも不思議で、面白い体験だった。 古いロックの魂と、AIが連れてきた現代のポップ・アイコンのような歌詞。こんな化学反応がこれからも現れると思うと「わくワク」してくる。

AIが学習してくれたギターのいち音いち音は、録音当時のギター氏の手癖まで再現しているのにも、改めて驚いている。

古き良き「爆弾マーク」の記憶

あたりの空気が正月を過ぎてまた一段と張り詰めてきた。 散歩の途中で「夏が恋しい」とかお互いバカなことを言っている夫婦を横目に、元気に散歩するジャックラッセルテリアの音くん。

新年早々、ある決断をした。

AWSの「S3」を導入することだ。

噂では、AWS(Amazon Web Services)のS3は、現代のデジタル・アーカイブにおける「巨大な図書館」のようなものだが、その受付(設定)はカフカの小説のように難解だとの定説がある。いいじゃない。チャレンジしがいがあるぜ。

ことの発端は、サブスクやレンタルサーバーのお金もばかにならないなと思い出したことや、ハードディスクを占拠している「亡霊たち」の処遇にあった。ここ20年あまり、自宅で録り溜めてきたギター、ベース、ドラムのアウトテイクたちもある。完成された楽曲ではなく、未編集の、荒々しい生の波形データ。これらは昨今、スタジオのAIモデルを育成するための重要な「栄養素」となっているのだが、その膨大なデータ量はもはやローカルのNASやHDで飼い慣らせるレベルを超えていた。簡単にいうと、あれはどこだっけ、ようは「探せない」状況が続く。

そこで、無尽蔵の容量を誇るクラウドストレージ、S3への移行を試みるわけだが、これが、とんでもない難物だった。

アカウントを作成し、バケットを用意する。ここまではいい。問題はその先、「IAM(Identity and Access Management)」だの「バケットポリシー」だのといった、権限周りの設定である。 JSON形式で記述されるポリシー設定を見つめていると、これこそがカフカの小説そのもの。自由度が高いと言えば聞こえはいいが、要するに「一歩間違えれば音が出ない(アクセスできない)」か「ステージが崩壊する(セキュリティ事故)」かの二択を迫られているようなものだ。

「アクセス権限がありません」

無機質なエラーメッセージが出るたびに、脳裏にある懐かしい光景がフラッシュバックした。 あれはまだ、Stranger Things、ホーキンスに平和が戻った頃の話だ。初期のMacintoshを使っていた時、頻繁にある「恐怖の宣告」に直面した。

そう、あの「爆弾マーク」だ。

処理しきれないタスク、競合する拡張機能、あるいは機嫌を損ねた何らかのコードが、画面中央に愛嬌のある爆弾のアイコンを表示させ、システムを強制停止させる。あの時の徒労感。再起動にかかる長い時間。爆弾処理班のように慎重にマウスを動かした記憶。その繰り返しをしていたとき、「そんなの窓から放り出しちゃえ」と当時奥さんはよく叫んでいた。

今のAWSの設定におけるストレスは、あの「爆弾マーク」と対峙していた頃の感覚に実によく似ている。 テクノロジーは飛躍的に進化したはずだ。AIが私の代わりにベースラインを生成し、プラグインひとつでアビイ・ロード・スタジオの残響が再現できる時代になった。それなのに、データを保存する倉庫の鍵を開けるためだけに、これほど冷や汗をかかねばならないとは。

だが、不思議と悪い気はしない。 マニュアルも読まずに直感だけで操作できる今のスマートフォンは便利だが、そこに「対話」はない。一方で、AWSの無愛想なコンソール画面は、72歳の老人にこう語りかけてくる。「おい、若造。この理屈が理解できるか?」。

解読困難なエラーと格闘し、論理の迷路を抜け出し、ついに接続が確立された瞬間のカタルシス。それは、難解な変拍子の曲において、バンド全員のグルーヴが奇跡的に噛み合った瞬間の快感に近い(そんなの演ったことないけど)。

結局、設定だけで丸三日を費やしてしまった。

朝のおはようの代名詞「こんな朝早くから、なんでそんな難しい顔してるの?」と聞いてくる。「雲のうえに倉庫を作ったんだけど、鍵が見つからなくてね」と答えると、「ふーーん」とか言ってコーヒーを飲み始める。

デジタルの進化を追いかけることは、OSを常に最新版へアップデートする儀式のようなものだ。たとえその過程で、何度かシステムエラーを起こしたとしてもその達成感は変え難い。

さて、無事にS3へのアップロードができるようになった。このブログに掲出するAudioVideoファイルもS3から発信しよう、なんて考えていたら「新たなる問題」に直面することとなる。(後編があるかないか、気分次第)

↓ お時間のある方のみ。ある意味懐古的ビデオ。爆弾マークみれます。