来るところまできたアナログメディアの復活

レココレの12月号(2025年12月号P72)を見ていいて、私の老いた脳内ニューラルネットワークを刺激するコラムが目に飛び込んできた。

米国の名門リイシュー・レーベル、ライノ(Rhino)が、あろうことか「オープンリール・テープ(Reel-to-Reel)」の販売を開始するというのだ。

「Yesの3rdアルバム」や「T REXの電気の武者」いずれも1971年の名盤が、アナログメディアの最高峰とされるフォーマットで復刻される。価格は各リールで US$299.98。2タイトルセットでの販売もあり、その場合は US$569.98。金属リールで500本限定とのこと。……なるほど、レコードやカセットテープのリバイバルが一周回って、ついに「聖域」にまで手が届いたというわけだ。

究極のハイレゾともいえるが、

誤解を恐れずに言えば、音質においてオープンリール・テープに勝るアナログメディアは存在しない。38cm/s(15ips)で回転する磁気テープが捉える情報の密度、ダイナミックレンジ、そしてあの中毒的なサチュレーション(飽和感)。それは、昨今のストリーミングサービスが提供する「利便性という名の圧縮」とは対極にある、リッチで濃厚な体験だ。

私自身、かつて自宅スタジオでギターやベース、ドラムの録音に明け暮れた20年間がある。あのアウトテイクの山――今や私の専属AIモデルの学習データとして再利用されている膨大な波形データ――も、元を正せばデジタルであのテープ感を私自身、かつて自宅スタジオでギターやベース、ドラムの録音に明け暮れた20年間がある。あのアウトテイクの山――今や私の専属AIモデルの学習データとして再利用されている膨大な波形データ――も、元を正せばデジタルであのテープ感をテープシュミレーターのプラグインなんかでどう再現するか腐心した歴史の集積だった。(これはこれで実にお金がかかっている)

だからこそ、ライノの狂気……いや、英断には敬意を表したい。マスタリング・スタジオでしか味わえなかった「あの音」を家庭に届けようというのだから。

しかし、ここで冷静な「デジタル・シニア」としての視点が警告灯を点滅させる。

「で、再生ハードウェアはどうするねん?」ハードウェアなきソフトウェアの孤独

これが今回のニュースの最大の皮肉であり、ウィットに富んだ悲劇だ。 新品のオープンリール・デッキを手に入れることは、現在、極めて困難である。数年前にフランスやドイツのメーカーが超高級機を発表したが、それは私のMac Studioが数台買えるほどの価格だ。

現実的には、40年以上前のRevoxやTEAC、Studerの中古機をレストアして使うことになる。コンデンサの液漏れと戦い、ヘッドの摩耗を憂い、キャプスタンのゴムベルトの加水分解に怯える日々。それはもはや音楽鑑賞ではなく、**「産業遺産の維持管理業務」**に近い。

最新のDAW(Digital Audio Workstation)を使えば、UADやSoftubeといったメーカーが開発した極めて精巧な「テープ・エミュレーション・プラグイン」を一瞬で呼び出せる。ヒスノイズの量も、ワウフラッター(回転ムラ)も、マウスのワンクリックで制御可能だ。

物理的なテープが持つ「偶然の揺らぎ」を愛するか、アルゴリズムが生成する「制御された揺らぎ」を使いこなすか。 72歳の私は後者を選ぶ。なぜなら、テープの掛け替えで腰を痛めるリスクがないからだ(これは比喩ではなく、切実な物理的問題である)。

とはいえ、物理メディアが回る様子には、抗いがたい魔力がある。 リールが静かに回転し、VUメーターが針を振る様は、まるで生き物の鼓動だ。家内が庭の植物の成長に喜びを見出すように、オーディオファイルたちが回転するリールに魂の安らぎを見出す気持ちも、痛いほどわかる。

今回のライノの試みは、効率化一辺倒の現代に対する、重厚長大なアンチテーゼだ。 再生環境を持たない多くの人々にとって、それは「聴くためのメディア」ではなく、「所有すること自体が目的のオブジェ」になるかもしれない。だが、それでも良いのだろう。

私は画面の中の波形を見つめ、AIに次のフレーズを生成させながら思う。 「不便さ」こそが、究極の贅沢品になる時代が来たのだ、と。

でも、ほんとうのことを言うと、我が家(スタジオ)には、父の時代から懇意にしていただいた電気店の店主からいただいたTechnicsのオープンリールデッキの名機が現役で鎮座している。だから、こんなライノのテープ欲しい欲しい。で、このマシーン本当に重くて移動させる場合は注意が必要なしろもの。何度、腰をやられたかことか。

youtubeで参考にしたサイト Rhino announces new reel-to-reel series. Reviewing the new T. Rex – Electric Warrior & The Yes Album を参考にして作成した解説PODCAST

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