昨日の記事で触れた「オリジナル曲xジミヘン×10cc」の生成実験は、私のハードディスクに奇妙な果実を残したが、それ以上に興味深かったのは、AI(Gemini)が教えてくれた言葉の起源だ。(ちなみに我が家ではGeminiはジェニー、Chat GPTはチャッピーと呼んでいる)
生成された歌詞の中にあった “Head over heels” というフレーズ。 ご存知、「恋に夢中」「ぞっこん」を意味するイディオムだ。 Geminiによれば、14世紀には正しく “Heels over head” (頭の上にかかとが来る=真っ逆さま)と言われていたものが、18世紀後半になぜか順序が逆転し、現在の形になったという。
冷静に考えれば、「かかとの上に頭がある (Head over heels)」のは、我々が普通に直立している状態だ。 しかし、この言葉は今も「恋に落ちてメロメロな状態」として世界中で使われている。
この「誤用」が定着した理由について、ある仮説に行き着いた。 論理的な正しさなど、「恋のエネルギー」の前では無意味だということだ。
「首ったけ」という日本語もそうだ。本来は「首の丈(たけ)」、つまり首までどっぷりと何かに浸かっている様を表す。足が地についていない、溺れる寸前の状態だ。 英語の “Head over heels” も、本来の語源通りなら「宙返り」や「転倒」をしてしまう。
つまり、洋の東西を問わず、人は恋に落ちることを「事故」や「落下」として表現してきた。 制御不能な回転。 重力に逆らえない没入感。
それはまるで、ビートの速いロックンロールが始まり、ドラムのフィルインに背中を蹴飛ばされて、「モッシュピット」の渦中へ放り込まれる瞬間に似ている。(わたしには経験がないのですが、想像するにということで)
ご存知ない同輩諸氏のために補足すれば、「モッシュピット」とは、ロックのライブ会場で興奮した観客同士が体をぶつけ合い、揉みくちゃになる「人間洗濯機」のようなエリアのことだ。 そこでは「まっすぐ立つ」なんていう肉体的にも理性も通用しない。ただ巨大なエネルギーの波にのまれ、かかとが頭の上に来るほどひっくり返される。
「Head over heels(恋に落ちる)」とは、まさにこの**「理性を置き去りにした、カオスへのダイブ」**を意味するのだと思う。
「かかとの上に頭がある」なんて冷静な姿勢を保っていられるのは、理性が働いているうちだけだ。 一度そのスイッチが入ってしまえば、言葉の順序がひっくり返ろうが、物理法則が乱れようが関係ない。 「君に夢中だ!」 と叫ぶ人間に、「文法的には逆ですよ」と指摘することほど野暮なことはないだろう。その必死な姿、言葉の整合性すら失うほどの混乱ぶりこそが、この言葉の真意なのかもしれない。
72歳になった今、若い頃のような劇的な「落下」はない(とは断言できないので)かもしれない。 だが、新しい機材の電源を入れた瞬間や、AIが予想もしない素晴らしいグルーヴを吐き出した瞬間、私は確かに「首まで」浸かっている。 心臓のBPMが上がり、理屈よりも先に感情が転がり落ちていくあの感覚。
言葉が誤用されようと、語順が入れ替わろうと、この「熱」だけは数百年経っても変わらないと思う。 論理よりもパッション。 AIがどれだけ賢くなっても、この「計算できない愚かさ」だけは、人間の専売特許として守っておきたいものである。
さて、 ジェニーが次の実験のための「命令(プロンプト)」を待っている。 さあ、もう一度ダイブするとしようか。この終わりのないデジタルの渦の中へ。
The Go-Go’s – “Head Over Heels” (1984) ちなみにベリンダカーライルは好きな歌手だった。というよりこのあと超セクシーになっていきますよね。
↓ この曲はもうみんなが知っているやつ